アマチュアヴァイオリン弾きの備忘録

フリッツ・クライスラーの音楽に感動して約10年ぶりにヴァイオリンを習い始めた人の備忘録

(巻き)ガット弦愛を熱く語る

私は(巻き)ガット弦の温かい音色、反応の良さが大好きです。一番のお気に入りはオイドクサで、張力が低めで音が柔らかいのが特徴です。ちなみに「(巻き)ガット弦」としたのは、プレーンガットを未だによく使いこなせていないからです。ちなみに、今のところプレーンガットだとAquilaの羊ガットが好きです。

今ではガット弦を張る弦楽器奏者を見かけることは珍しくなり、すっかりマイノリティになってしまいました。以前、youtubeでオリーブのe線(スチール)をガット弦として紹介しているプロ奏者を見かけて、ガット弦の認知度はこんなに落ちたものかとショックを受けたことがあります。

今回はふと思い立ったので、ガット弦愛用者が思うことを好き勝手に書いてみようと思います。本当に好き勝手に書きますので悪しからず。若干の想起バイアスがあるかもしれません。

オイドクサのe線も、オリーブと同様にガットではなくスチールです(苦笑)プレーンガットは角のない温かい音で、1本張るだけで他3本の弦がよく鳴るようになるので気に入っているのですが、1ヶ月もしないうちに弦表面が粗くなって雑音の量が無視できないほどに増えるのが…。あと心なしか馬毛の消耗が早いような。そもそもそういうものなのか、私の使い方が間違っているのか、未だによく分かりません。

ガット弦を一度も試したことがない人へ

ガット弦は良いぞ!!!

ガット弦の良いところについて、冒頭に一部書きましたが大事なことなのでもう一度書きます。※あくまで私個人の見解です。

①音色

豊かな倍音で、とにかく音が温かい。弓で軽くなでるだけで、ふわーっと温かい音に包まれる。開放弦で弾いても耳が痛くなりにくい。ちなみに、私はナイロン弦のa線の耳に障るような硬い音が受け入れ難いので、あまり張りたくないと思っている(そもそもa線の音がまろやかな楽器はそうそう無いのだが…涙)。ナイロン弦からガット弦に張り替えた後、楽器がよく鳴っているのを聴くと本当にほっとする。

音程や運弓が悪いと倍音が消え、音が硬くなったり詰まったり濁ったりするので改善すべき箇所が分かりやすい。もちろんナイロン弦でも分かるが、ガット弦の方が分かりやすいと思う(ただし弦による)。繰り返しになるが、あくまで私個人の見解である。

②反応が良い

指板側での弱い弓圧にも反応してくれる。馬毛と弦の接点、弓圧、速度が適切であれば音量がしっかり出る。これはナイロン弦でも同じだが、ガット弦の方が条件がシビアだと思う。音のキャラクター一つ一つの条件がシビアだが、表現の幅が広い。要は表現力が豊かなのである。一般にガット弦が中、上級者向けとよく言われるのはこれが理由ではないかと思う。

③音色が長持ちする

ナイロン弦とは異なり、音色がかなり長持ちする。個人的には巻きが錆びまくるか、巻きが崩れるか、弦が切れるまではずっと使えると思っている。私はもしかしたら1年以上使っているかもしれない。a線、e線は結構切れやすい。

ガット弦の最大の弱点:湿度変化に弱い

ガット弦の好きなところを3つ挙げましたが、ガット弦にも最大の弱点があります。それは湿度変化により調弦が狂いやすいことです。特に演奏会では、会場の湿度管理が無慈悲であればあるほど無視できない問題になります。ガット弦が主流だった時代は、演奏中に音程が下がることを見越して高めに調弦していたようですが、ナイロン弦が主流の現代においてこの策は果たして意味があるのか…?だから、私はアンサンブルで弾く時はナイロン弦のヴィジョンソロに泣く泣く張り替えています。オケでは会場次第ですがガット弦を張ったまま出ることもあります。

ガット弦のもう一つの弱点は、特にa, e線が切れやすいことです。とにかく湿度管理を徹底するしかありません。あとは、弾き終わった後にペグを少しだけゆるめておくという対策もあるようですが、実際に効果があるのかはよく分かりません。ちなみに私はヴァイオリン歴約5年ですが、g, d線を切ったことは一度もありません。

「ガット弦は音量が出ないし反応が悪い」?

巷でガット弦はこのように認識されているらしいです。私はガット弦を使っていてこのように感じたことがなかったので驚きました。

反応性については、特にナイロン弦のg線は反応が悪くて(指板寄りでの弱い弓圧で鳴ってくれず、雑音が出てしまう)出来ることなら張りたくないと思うほどです。

私自身、ナイロン弦で弾くのはアンサンブルに限定していることもあり、もしかしたらナイロン弦を使いこなせていないかもしれませんが、ガット弦とナイロン弦、特に張力が強いナイロン弦とでは弦が鳴る運弓の条件の範囲(適切な言葉が思い浮かばず、果たして読み手に伝わるか…)が大きく異なるように思います。ナイロン弦は強い弓圧でもそれなりに鳴りますが、ガット弦は運弓の条件が悪いと音が潰れて音量がかえって小さくなります。

次にガット弦の音量について。これは諸説ありますが、ガット弦でオケと一緒にコンチェルトを弾いていた演奏家達が多数いる(特に一昔前、ナイロン弦が開発される前の時代)ので必要な音量は十分に出ていると思います。

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弦の選別にかなり厳しく、何十本もの弦を大量買いしてその中から音が一番良いものを選んでいたらしいグリュミオー先生。音に対するストイックさが演奏を通して伝わってくる気がする。にしても彼のモーツァルトは本当に美しい…。

出典:加藤潔「バイオリンレッスンの前に バイオリン副教材 入門編2」, 全音楽譜出版社, 1967

www.youtube.com

ファウストはプレーンガットのa, e線でブラームスのヴァイオリン協奏曲を弾いちゃってます。初めて見た時はさすがに目を疑いました。今この時代に独奏付き交響曲みたいな曲にプレーンガットを選べるメンタルが凄すぎる。特にガットのe線は演奏途中で切れないか見ていてヒヤヒヤしてしまう。

とにかく、ガット弦は音量が出ないし反応が悪いと巷で言われるのは、弦が鳴る運弓の条件がナイロン弦と異なるゆえではないかと思います。繰り返しになりますが、あくまで私個人の見解です。

「ガット弦は中、上級者向け」に異議を唱えたい

率直に書いてしまいますが、上記のガット弦使用のハードルを上げるような主張はいかがなものかと思います。初級者ごときが高価なガット弦を使うなんて、という考え方も私は許容できません。むしろ、初級者にこそガット弦を用いた練習をおすすめしたい。ただ、調弦がある程度できるようになるまではナイロン弦やスチール弦の方が良いとは思います。調弦がすぐに狂ってしまったら、モチベーションがもたないかもしれないので…。初めのうちはg線のみガット弦にするとハードルが幾らか下がるかもしれません。私も初めはそうでした。

ガット弦の表現力はナイロン弦を上回るというのが私の見解です(ただし弦、楽器や弓のランク、駒や魂柱の調整による…楽器に関しては頭が痛くなる話題なのでここでは触れません。高騰しすぎ)。反応が良いだけでなく、運弓や音程が悪い時の音の濁り具合、詰まり具合が分かりやすいと思います。逆に、運弓や音程が良ければよく鳴ってくれるので、学習者の技術習得を助けてくれるのではないか。

使用する弦に限らず、楽器や弓にしても学習者は引き出しの多いものを使う方が学べることが多いのです。人間の感覚は自分が思っているよりもずっと敏感で、運弓や運指、ポジション移動、楽器の支えなどの微妙な感覚が無意識のうちに身体にインプットされます。だから、学習に使う道具は軽視しない方が良いというのが私の考えです。

余談:近年の演奏のトレンドに関するぼやき

私のただの小言です、ごめんなさい。最近は時代のトレンドなのか、かなり強い弓圧かつ大音量でパワフルに弾く演奏家が増えています。正直なところ、私は苦手です(ゆえに私が書く記事にはバイアスが混じっています、ご了承ください)。このような弾き方は、エヴァなどの張力が強いナイロン弦向きだと感じています。ガット弦はこのような弾き方だとすぐに音が潰れます。そして、近年流行りのパワフルな演奏がしたい人にはガット弦ではなくナイロン弦の方がおすすめです。

 

 

久々に記事1本をアップするまでに結構な時間がかかってしまいました。ガット弦が素晴らしいのは間違いないのですが、いざ言語化しようとするとやたら考え込んでしまい、なかなか進みませんでした。ぶっちゃけナイロン弦が苦手だなんて本当はあまり言わない方が良いだろうし…でもこういう考え方の人もいるにはいる、というのが伝わればそれで良いのかなと。いろいろ書きましたがどうか鵜呑みにせず、まずはご自身でお試しください。